大判例

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富山簡易裁判所 事件番号不詳 判決

主文

被告人は無罪

理由

被告人は

一、昭和二十六年六月二十七日午後十一時頃上新川郡新保村上栗山添田源治方北側土間に置いてあつた仲田勝美所有の自転車一(台価格七千円相当)を窃取しようとしたが折柄帰宅してきた同人に発見逮捕されたため目的を遂げず

二、同年四月中旬肩書住居において奥村久則に対し「自転車一台位どこからか盗んでくればわからぬように部分品を取り換えてやる」と言つて窃盗を教唆しその結果同人をして同年五月二十四日頃富山市梅沢町池上義政方玄関先にあつた武田正二の借受け占有中の中古自転車一台(価格一万円相当)を窃盗せしめ

三、同年五月二十四日頃前記自宅において前記奥村久則から同人が他から窃取したものであることの情を知りながら前記中古自転車一台を預かりもつて賍物の寄蔵をなし

四、同年九月下旬兼ねての知人佐伯貞信の依頼に基いて同人が窃取してきたものであることの情を知りながら中古目転車一台を富山市清 町所在のオートバイ修理業尾山某方に持参し売却方の周旋をなしよつて同人を通じて貴堂実に対し金四千七百円で売却しもつて賍物の牙保をなし

たものである。

右の事実中第一の事実は

一、証人仲田勝美の当公廷の証言

一、証人杉原信次の当公廷の証言

一、司法警察員作成の現行犯人逮捕手続書

一、司法警察員作成の実況見分調書

第二及び第三の事実は

一、証人奥村久則の当公廷の証言

一、奥村久則の検察官に対する供述調書謄本

一、中西武雄の司法警察員及び検察官に対する各供述調書

一、武田正二の司法警察員及び検察官に対する各供述調書

第四の事実は

一、証人佐伯貞信の当公廷の証言

一、証人五十嵐文正の当公廷の証言

一、証人貴堂実の当公廷の証言

一、証人鍋島貞治の当公廷の証言

一、佐伯貞信の検察官に対する供述調書

によつてこれを認定することができる。

然しながら進んで審究するに池田栄次郎の検察官に対する供述調書中にその供述として「被告人は自分の三男で分家しているが小学校も充分にすんでおらず、学校へやつても字を覚えるということもしないで少さい時から物を壊すことが好きで親としてその子を阿呆とは思わないが少したりない子供と思つています。被告人は現在稲荷町で自転車の修繕業をしておりますが仕事は人に負けない程熱心で上手でありますがあまり気が良すぎるので損をしても商売をするという気質でありそこが自分としては足らんと思つております。また商売の見積もなかなか上手でそのとおりの仕事をやりさあ売るという時になればお客さんのいうとおりになつて元値で渡してしまうので困つておるという状態であります。」という意味の記載、池田みどりの検察官に対する供述調書中にその供述として「自分は被告人の妻であるが自分から被告人の日常生活や精神状態を考えると商売のことについては非常に熱心であるが気が良くて損をしてでも人様に頼まれたら取引をしてあげたりします。小学校も充分に来校していませんので新聞なども読めないのであります。自転車の商売をするについても余り気が良すぎて断らなければいかんことがあつてもよう断らないで損をしているのであります。世間の普通の人から見ると一寸馬鹿なところがあります」という意味の記載、証人池田伝作の当公廷における「自分は被告人の兄であるが、被告人は二十才頃梅毒にかかり二十五才の頃症状が現われ自分の腕にかみつきその結果東京まで行つて手術もし一時は生命も危ぶまれたのですが富山へ連れもどり家城病院でどうにか生命をとりとめたが其の後頭が少し変になつた」という意味の証言、鑑定人秋元波留夫の被告人に対する鑑定書中「被告人は生来性精神発育制止に基く意思不定及び性倒錯を主とする性格異常を有する生来性精神薄弱者であつて、その程度は重症痴愚の段階に属し前述第一乃至第三の犯行当時はいずれも右の精神状態にあつて同犯行はこの精神状態のもとにおいてなされたものである」という意味の記載、証人としての同鑑定人の当公廷における「昭和二十七年九月頃の被告人の精神状態は右と同様である」という意味の証言、鑑定人田原幸男の被告人に対する鑑定書中「被告人の昭和二十六年四、五、六月頃の精神状態は精神薄弱と意思不安定、被影響性の高い自己感情高揚的な病的性格の状態にあつて、其の頃の各犯行は右の精神状態において行われたものである。なほ被告人の現在の精神状態は昭和二十六年四、五、六月頃の精神状態と変化はなく精神薄弱(その程度は白痴に近い)と病的性格の持主である」という意味の記載並びに被告人の当公廷における供述(第八回、第十回公判)及び態度等を参照して考量するとき被告人は本件犯行当時心神喪失者であつたものと認定するのを相当となすから刑法第三十九条第一項によつてこれを罰しないこととする。

よつて主文のとおり判決する。(昭和二七年九月二九日富山簡易裁判所)

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